Vanished
Reki
- 暦を探せ -
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「……来ない。」
ランガはいつもの公園にいる。すでに約束の時間を過ぎて一時間以上も待っている。それなのに暦が来ない。
昨日くだらないことで小競り合いをしたことが原因なんだろうか……。そう思うも、それが原因で来ないとは考えにくい。何かあったのでは――?
『どこにいる?』
メッセージを送っても、既読すら付かない。ランガは立ち上がり、暦の家へ向かって歩き始めた。
「帰ってきてない?」
「そうなのよ、てっきりランガくんと一緒だと思ってたんだけどねえ」
暦の母親は下がり眉でそう答えて、やかんが沸いていることに気づいてすぐに台所に戻った。
「ランガくん、実はこれ……」
母親がいなくなったときを見計らって、暦の一番上の妹である月日が耳打ちをしてきた。そして、ランガにふたつ折りになった紙を渡してきた。
「……。……なにこれ」
「分かんない。お兄ちゃんからランガくんに渡してって言われた。『俺はここにいるから、皆に聞いて埋めろ』って。ワケかんないよね」
ランガはその紙を見つめたまま、暦邸を後にした。その場で携帯電話を取り出して、紙の写真を撮り、暦に送るが返信はない。ランガはそのまま友人2人にその写真を送った。
「で、なんでボクがこんなよく分かんない理由で呼ばれなきゃいけないわけ」
「俺ァ仕事中なんだよ……」
ランガが頼った先は実也と広海だった。とりあえず広海の働くフラワーショップに集合した。
「どうしたらいい?」
「さあ。そもそもなにかおかしくない? なんで暦を探すのにこんな紙が必要なの?」
それはランガにも分からない。しかし、目の前にはこのおかしな紙しかない。
「でも、探すしかないから」
そう言ってランガは紙とにらめっこしている。しかし、そんな方法で新しいヒントが出てくるはずがない。それを見かねた実也が深いため息をついて、紙を奪う。
「見てるだけじゃ答え出てこないでしょ、行くよ」
結局のところ、広海も仕事を早めに上がってついてこれることになった。実際は、店長に面倒を見るように言われ無下にもできずしぶしぶと着いてきたのだった。以前にも、こんなことがあった気がするのは気の所為だろうか。
「ん……?」
ふと気づいた先をみると、喫茶店の窓越しに愛之介と忠が喫茶店でカップを啜っている。
「あれ……」
「え、珍し、喫茶店でコーヒー飲んだりするんだ」
実也が2人に気づいたときには、ランガはその場所へ向かって力強く足を進めていた。そしてあっという間に店内に入り2人のもとへ駆け寄った。
「おや……ランガくんじゃないか!」
愛之介はランガを見るや口角を上げて歓迎する。そして色々と言っているのを遮って、ランガは持っている紙をドンと差し出した。
「やっぱり、それが目的なんだね……」
愛之介は心底残念そうに肩を落とし、胸のポケットから紙を取り出す。
「……え? なにこれ」
実也は紙を見て一瞬固まった。そしてそんな実也を尻目に、愛之介は目を輝かせて続ける。
「このリンゴにまつわる言葉を知っているかい? 英語でAdam's Appleは喉仏を意味している……そう、ランガくんの喉にも存在している、その美声を生み出すものだよ……」
ランガは全く意に介していない。
「私達が持っているのはそれだけだ。これが次行くべき場所を示している……」
そして忠は顔色一つ変えずに淡々と説明する。
「ふざけてんの?」と実也が楯突くと、愛之介は先程の声色のまま続ける。
「僕は至って真面目だよ。残念だけど、これ以上の情報は何ももっていない。あとは君たち次第だ。では、僕らはここらへんでお暇するとするよ」
そう言って愛之介と忠はいそいそと立ち上がる。去り際に忠は実也に耳打ちした。
「……どうしても分からなければ、この紙をヒントにしてくれ」
「なんのつもり?」
「気まぐれだ」
「この……これはリンゴ……だよな」
広海は紙を見ながらおずおずと言うと、実也がそれに続く。
「待って、ひとつの思考に引きずられるのは良くないよ。他に読み取らなきゃいけない情報があるのかも……」
そうやって悩んでいた3人だが、途中ひらめいたランガが大声で叫んだ。
「……分かった! これは俺がよく知ってる場所を表している! そして答えは、この人がそこにいるはず!」